適当に就職活動をした話
僕の構成要素に「他力本願」というものがある
昔から自分で何か考えて行動した経験が乏しく、「まあ誰か決めてくれるだろう」と楽観的に構え、なあなあで生きてきた20年弱
そんな僕も大学四年生となり、就職活動のシーズンを迎えた。
四月一日にあった幕張のどデカイ合説へ行くだけ行き、特に何もせず交通費を浪費した以外、進捗ほぼゼロで四月を終えようとしていた頃
「どうせ就活してないだろ?」
と、高校時代の友人が紹介してくれたのが、某人材会社のAさんだった。
Aさんは元高校球児で、プロ野球選手も多数排出している強豪校の出身。
怪我で野球を諦め就職活動の末、大手商社に就職
数年間勤めた後、現在の会社で学生の就職をサポートしている…
みたいな人。
「この人すげえよ。◯◯(某有名プロ野球選手)とチームメイトで、何でも相談乗ってくれるし、今二人で頑張ってんだ」
ほーん、 この人に頼れば内定取れんのか。
なんか楽そうと思った僕は、友人に話を通してもらいAさんのLINEを入手
直接やりとりして早速面談の日取りが決まった
こうして、元高校球児にして人材会社勤務の就活アドバイザーAさんとの就職活動の日々が始まった
ある意味僕の期待通り、就職活動の軸・志望業界・面接試験対策など、ほぼほぼAさんの主導ですすんでいく
僕は面談終わりに課された『宿題』をこなすくらいで、それが済めばあとは次の面談を待つのみ、という究極の他力本願就活に安心感を覚えていた
受ける企業は、Aさんの所属する人材会社と関わりのあるところばかりだが、それでもまあ落ちる。
(『社員みんな仲良し!休日もイベント!BBQ!』みたいなとこで「う〜ん、ワークライフバランスを重視したいっすねw」とか言ったらさすがに落ちる)
「ここの社長はオレも仲良くて、飲んだことあるけど、ホント良い人だよ。ちょっと熱い人だからしっかりアピールしないとだけど…」
なかなか内定が出ない中、Aさんがこう紹介してくれた企業は港区某所にあった。
一次、二次と面接をなんとか突破し、いよいよ“““熱血社長”””と一対一の最終面接である。
緊張の面持ちで面談室で1人待っていると、険しい表情で社長が入ってくる
「ほ、本日はよろしくお願いします!」
「…うん。」
社長は険しい表情のまま着席し、僕の履歴書を見ながら淡々と質問してくる。
大した深掘りもなく、僕はAさんとともに(実際にはほとんどAさんが)考えたテンプレートの回答を紡いでいった。
「そいで?キミはほんとにウチが第一志望なんか?」
「未経験者歓迎ゆうても、勉強することは多いで?やれんのか?」
履歴書の内容をひとしきり聞き終えると、社長の関西弁での質問は次第に
「やれんのか?」「できんのか?」と精神論チックな方向へシフトしていく。
最終面接の場で歯切れの悪い回答はできない。僕はひたすら
「はい!」「やれます!」「がんばります!」
を繰り返すアンドロイドと化す
そして、ついに社長の鉄仮面が剥がれた
「おし!内定や!!!」
え?
身を乗り出し、握手を求める社長。
反射的に握手する僕。
内定?もう?いまここで?やれますできますアンドロイドしてただけで?
「今、書類持ってくるから待っとってな!」
晴れやかな顔で退出し、晴れやかに戻ってくる社長。
言われるがまま、書類に署名押印し内定承諾の手続きをする僕。脳内は混乱したままである。
そんな僕を更に混乱させる事態が続く。
「じゃあ、それ書いたらちょっと行くで」
「ど、どこにですか」
「いいから、終わったか?ほな、ついて来い」
社長に連れられるまま、階下に向かう。
事務所のドアを勢い良く開けた社長が、威勢の良い声を張り上げる。
「本日、当社に内定した〇〇君です!」
「「「「「おめでとうございます!!!!!」」」」」
それまでPCに向かっていた社員が、アンドロイドのように一斉に立ち上がり、声を揃えて僕を惜しみない拍手で迎えた。
…
…割と怖い。
「ほら、表情硬いで!もっと笑ってみぃ!」
最後に社長に肩を抱かれツーショット写真を撮り(上記のやりとりが二回くらいあってTAKE3くらいでOKが出た)僕は帰路に着く。
Aさんに内定の胸を伝えると、大袈裟な祝意を述べられ
「いやほんとにあそこに内定するのはすごいよ、結構良い大学の学生も落ちてて…」
と、これまで熱血社長にふるいにかけられた過去の就活生のデータ(本物?)を見せられる。
何はともあれ、僕の就職活動は終わった。Aさんもこの上ない結果、といった様子だったし、あとは入社までのんびり過ごすとしよう…
…
……
………
…いや、ヤバくない?
あの会社、ヤバそうじゃない?
何?最後の
「内定者の〇〇君です!!!」
「おめでとうございます!!!」
って
絶対ヤバいっしょ…
内定は辞退しました。(了)