元同級生に勧誘された話

「長らく連絡を取っていなかった友人からの突然のLINE」の多くは黄色信号だと思う。

 

 

 

 

 

K君は中学時代同じ部活、引退後の三年時もクラスが同じだったのでよく話していた。といってもそれは学校内だけ、休みの日に遊んだりしたことはない。卒業後は一切交流ナシ

 

ってカンジの関係。そんな彼からの突然のLINEが来たのは、僕が新卒入社即退職をキメてフリーターになり二年目の時だった。

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お互いの近況を軽く報告すると、なんとK君も同じフリーターであることが発覚。

 

【ねこどらは今後、どうしていくとかある?】

【あんま考えてないけど、今のバイト先で社員になって最強になりたい】

【なにそれ笑 俺は春から仕事が決まったんだよね】

 

どうやら最強になりたい僕と違い、K君は就職が決まっているらしい。既卒無職脱却の方法も知りたかったし、僕はK君と中学以来の再開をする運びとなった。

 

 

 

 

 

数日後、喫茶店で向かい会うK君のずんぐりとした体格は中学時代の面影が色濃く残っていた。

 

 

 

昔話にひとしきり花を咲かせた後、話は互いの近況に移ってゆく。

 

大学時代、ちょっとした事情から鬱ぎ込んでしまったK君は、通学が困難になるほどのメンタルだったらしい。

 

「でも、ある人のおかげでちょっとずつ前向きになれてさ、今度決まった仕事もその人から紹介してもらったんだよね」

 

「へえ〜、その人とはどこで知り合ったん?」

 

「Aっていうネットワークビジネスの人なんだけどさ…」

 

「ネット…ワーク…」

 

「ねこどらって野球好きだったよね?ほら、元○○(プロ野球チーム)の××って選手いたじゃん?あの人も関わってるんだ!」

 

 

瞳を輝かせ語るK君に教わったサイトを見ながら、僕は思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

(旧友からマルチに勧誘されてしまった!!!!!!!!!!!!!!!!!!)

 

 

 

 

 

 

 

もちろん、そんな直接的な勧誘はなかったし、なにか売りつけられたわけでもない。

 

K君はあくまで「自分が鬱状態から立ち直り、就職も決めることができた方法」として、よかれと思いネットワークビジネスの存在を教えてくれたのだと思う。

 

それでも、僕の色眼鏡なのかもしれないけど、「A」の人々の話を嬉々として語るK君にはどこか狂気的なもの感じずにはいられなかった。

 

 

 

 

「そのうちでいいから、返事聞かせてくれよな!」

「…うん」

 

茶店を出て、寄り道もせず帰路についた。

 

K君は恩人である「A」関係者の方を紹介すると言ってくれたが、僕は態度を保留することしかできなかった。正直、全く会う気はなかったけど、面と向かって伝えることは憚られた。

 

 

(K君、スマン。)

 

 

僕は帰宅後、得意のバックれ精神を以って、K君のLINEをブロックした。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後、僕は駅の階段を駆け下りていた。

感情のないレジ打ちロボットと化すアルバイトへ向かうためである。

 

何の変哲もない日だった。旧友にマルチに勧誘されたことも、LINEをブロックしたことも忘れかけていた。

 

 

 

 

 

その声を聞くまでは。

 

 

「あれっ?ねこどら?」

 

 

振り向くと、見覚えのあるずんぐりとした体格の男性が、聞き覚えのある声で話しかけていた。

 

K君だ。

 

「ねこどら!おいねこどらだよな!LINEブロックしただろ!」

 

「ごめん!!!!!!!!!!!!急いでる!!!!!!!!!!」

 

嘘。急いでいない。僕が走っていたのは、たまたま早く家を出て一本早い電車に乗れそうだったからだ。そして今走っているのは、LINEをブロックした旧友と顔を合わせるのが気まずいからだ。

 

 

「ねこどら!なんで逃げるんだよ!!!!!」

 

 

K君の声が遠ざかる。電車のドアがちょうど開いた。飛び乗る。

 

 

息が切れる。ダイナミック乗車。流れる車窓の景色は、やっぱりいつも通りだ。

 

 

 

 

 

「なんで逃げるんだよ!!!!!」

K君の声がリフレインする。

 

僕は逃げた。仕事から逃げ、就職から逃げ、K君からも逃げた。

何が正しいのかは分からない。

 

ただひとつ、間違いないのは僕はこの後20:15の閉店までレジに突っ立っていることだ。

 

 

(了)