気を付けたい
数年振りに訪れた原宿駅は様変わりしていた。
小さな木造駅舎は既にその役目を終え、ガラス張りの橋上駅舎はどこか近未来的な風貌だ。
目的地は、某アウトドア系ファッションブランドの旗艦店である
とりあえず試着してサイズ感だけ確かめ、ネットで安く買うってのが理想かな、と考えての訪問であった。
(このスタンスをよく覚えておきましょう)
例によって道を間違え、まず正反対の方角へ猛進
軌道修正後も(俺の人生さながらに)ウロウロと迷いながらなんとか店舗に到着
青い看板が印象的なガラス張りの二階建ての建物は、さすが旗艦店の佇まいである
それっぽい顔をして商品を弄っていると、いかにもアパレル風な女性店員さんが話しかけて下さる
「これは〇〇が××になってまして〜」
冷やかしならこれにビビって尻尾を巻いて逃げ出すところだが、試着くらいはしたかったので、今日に限ってはありがたい
「い、いんたーちぇんじ?(ダウンが着脱可能なアウター)みたいなのがほほほほほほほ欲しいんデスケド…」
と覚えたての専門用語をドヤ顔で口にする
いかにもアパレル風な女性店員さんの手際の良い接客の下、色々と試着。
正直、風俗嬢とお母さん以外の女性と話す機会が皆無なので緊張しっぱなしで服どころではない
とりあえず最初に着たヤツがシンプルでいいかな〜と思い、値段を聞いてみる
「こちらは税込で4万1千円になりますね」
四万かあ…
この辺は、各々の価値観や経済状況によって意見の異なるところだろう
隙あらば自分語りをさせて頂くと、僕は私服の大半がユニクロ、ウーバーイーツ配達員専業の月収10万子供部屋おじさんである。
ウンウン唸りながら迷っているフリをして、正直心の中では4万を出すか出さないかで自問自答している
「あっ、で、でもこれって、もしかしてオンラインで買った方が安くなったりしますか?」
「店舗限定なのでオンラインでは買えないんですよ〜」
「そ、ソウデスカ…」
「セールにもならないものですしね〜」
「…もう一回着てもいいですか?」
う〜ん、4万かあ、と思いながら再び袖を通す
「いかがですか?やっぱりこれがシンプルで人気なんですよ、かっこいいですよね〜」
えっ?かっこいい?????
俺、かっこいい?????????
「買います。」
かっこいい男は迷わないのである。
店を出ると、喉に小骨がつかえたような違和感を覚える。
今さっき購入したインターチェンジのジャケットが入った紙袋を脇に置き、一度落ち着いて道端のベンチに腰掛ける。
あれ?
今日ここで買うつもりだっけ?
試着して、サイズ感云々とか思ってなかったけ???
あれ???
ふと思い出し、改めてサイトを調べてみると(勿論全く同じものはないが)どんなに高くても一万円近く安価に買える模様である。
あれ??????????
まあ、同じものはネットで買えないしな。
セールにもならないらしいしな。
あと、かっこいいしな。
そうだ、俺はかっこいいんだ。
気を取り直し、かっこいい俺は原宿でおしゃれなカフェに行くぞ!とgoogleマップを開く。
星が四つくらいついてる良さげなカフェに、(俺の人生さながらに)ウロウロと迷いながら到着。
ところがどっこい、メニュー表の日本語が全く解読できん。
なんだこれは SとかMとかLでいいだろ ここは日本だぞ 皇国だぞ
それでも、かっこいい俺は「エスプレッソ」と「アメリカン」くらいは解読できる
「エスプレッソ」は苦いやつ
「アメリカン」は薄くて多いヤツだ
かっこいい俺は、にが〜いエスプレッソを飲んじゃうぞ!!!!!
「すみません、このエスプレッソを下さい。」
キマった。
いやちっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっさ
(イメージ画像)
そしてにっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっが
女性に「かっこいい」と言われてヘンな壺とか買わないよう、気を付けたいと思います。
(了)