仕事をバックれて梅田に逃げた話 〜甲子園編〜
「何も心配ないから、帰ってきなさい」
電話口で母が言った
なぜ、心配がないと言い切れるのだろう?
僕は不思議だった。
仕事をやめたとして、この先どうするのか。
心配しかないじゃないか 無責任なことを言うな
マザコンで小心者の僕はそんなことを言えるはずもなく、
「ごめん」とか「げんきです」とか「必ず帰ります」とかそんなこと言って電話を切った。
大阪駅の駅ビルに向かう途中、公衆電話から家に電話したのだった。
なんとなく、家に生存報告だけしないと警察沙汰になったりしそうで怖かった。
駅ビルに来たのは、金券屋で甲子園のチケットを買おうと思ったからだ。
折しも地元・埼玉の花咲徳栄高校が県勢初の全国優勝を賭けた試合が翌日に迫っていた。
運良く内野スタンドの入場券を購入でき、翌日現地へ。
iPhoneを東京駅に捨ててきたので、たどり着くのに苦労した。
スマホの無い生活にも慣れた気でいたが、こういう時にはありがたみを実感するものである。
試合は序盤から花咲徳栄のペース、
終わってみれば14-4の大勝で見事優勝。
僕も内野スタンドから拍手を送った。
球児たちは立派だ。燃えるような太陽の下、本当に命懸けて白球を追う。
そんな彼らがもう5つも6つも年下という事実。
…どうしますか?
ハハ。笑
翌日、ニュースを見た。
『全国制覇の花咲徳栄、地元へ凱旋』
凱旋
なんとも勇壮な響きである。
同じ埼玉に、僕はどんな顔をして帰ればいいのだろう。
神戸福原編へ続く