仕事をバックれて梅田に逃げた話

朝から蝉が鳴いていた。

いつもと変わらぬ夏の朝。

僕は憂鬱だった。

 

 

 

四月に社会人になってから、毎朝起きると身体が5トンくらいあるような気分だったが、その日は盆明けということもあって10トンくらい重さを感じた。

 

 

 

「今日会社行けるかな〜」

 

 

 

他人事みたいに考えながらいつも通り朝食を取って家を出て、とりあえず電車に乗る。

 

 

 

会社の最寄り駅に着いた。

 

 

満員電車で奴隷のようにすし詰めになっていた人々が、盆明けの重い身体を引きずって、それでも職場に向かってゆく。

 

 

 

 

 

 

 

僕は降りなかった。ドアが閉まった。

 

 

 

やってしまった、と思った。

でも、もう出勤する気はなかった。

 

 

 

新宿に来た。10トンはあった身体が5グラムくらいに軽くなった。

 

 

 

 

いや、会社、いけよ。笑

 

 

 

 

まだ自分のしたことが実感できないまま、なんとなくネカフェへ入ってみる。

 

 

会社に連絡すべきか迷い、スマホの電源を切ったり入れたり切ったり入れたり切ったり入れたり切ったり入れたり…

 

 

 

結局、課長にメールだけした。

「体調不良のため欠勤します」

エロ本を読みながら送った。

 

 

 

 

金券屋が開くのを待って、適当に飛び込んだ。

「今日大阪まで行ける切符、あります?」

 

なんで大阪にいくことにしたのかは分からない

親戚や友人がいるわけでもない

 

とりあえず遠くに行こう、と思った時浮かんだのが大阪だった

 

 

 

 

中央線に乗って東京駅まで行ったはずだけど、よく覚えていない。

ほとんどワープだ。

 

 

新幹線に乗る直前、スマホを駅のトイレに捨てた。

 

本当は川にでも投げ捨てて海の藻屑にしたい気分だったが、最後に残った理性がそれを妨げた。 

 

 

スマホの無い新幹線は実に手持ち無沙汰であった。

 

駅で買った浅見光彦シリーズ『御堂筋殺人事件』にも飽き、外を見ようにも窓際の席には知らんオッサンがいて邪魔でしかない。

 

 

 

 

京都まで来ると、車窓からおなじみの五重の塔的何かが見える。

なんだかとてつもなく遠くまで来てしまった気がして、その時初めて不安を覚えた。

 

 

新大阪着。昼すぎだっただろうか。

とりあえず梅田ってのが東京でいう新宿みたいなモンというのは知ってたので向かうことにした。

 

 

阿呆な僕は新大阪から歩ける気がした。ので歩いた。

 

 

道ゆく人々の話す声は、当然ながら関西弁だ。

ああ、仕事をサボって大阪に来たんだなあと徐々に実感してゆく。

 

灼熱の日差しの元、こうして歩くのもたまには…

 

 

 

……… 

 

 

 

 

…無理だった。遠いし。暑いし。

 

 

 

阪急電車に命を救われ、無事梅田着

 

駅を出たらTOHOシネマズが。

 

ちょうど『スパイダーマン ホームカミング』を見たかったので、チケット購入。 

 

映画は面白かったが、不意に(例えばスパイダーマンが車に引きずられてるシーンとかで)「この後どうしよう」という漠然とした不安に襲われ、イマイチ集中できなかった。

 

 

 

映画が終わると、もう外は薄暗くなっている。

 

今日は一応仮病の連絡をしたけど、明日以降はもう連絡の術がない。

 

いよいよ本当に行方不明だ。

 

なんだか不思議だ 何が起きたわけでもなく、僕はこんな元気なのに

 

 

 

とりあえず公衆電話でも探して、家には連絡くらいしたほうがいいかな

とかちょっと思った。

 

 

 

甲子園編に続く